有史以前から食用とされており、エーゲ海文明時代の壁画・絵画・彫刻に残され、それを引き継いだギリシャ・ローマ時代には数多くの品種が登場しました。イタリア・フランス・ベルギー・ドイツ・イギリスなどで栽培が盛んになったのは中世になってからで、ルネッサンス時代の絵画にも多く登場しています。アメリカには17世紀に移民によって伝わり、南米にも同時代に伝えられました。やがてイギリス人によってオーストラリア・ニュージーランドにも伝わり、西洋人のいるところには必ず西洋なしがあるほどになりました。
ヨーロッパでは「この世に存在する最も美しい果実として、その形は女神の乳房にたとえられ、芳しい果汁はビーナスの涙ともいわれています。また、フランス最後の女王、マリー・アントワネットは洋ナシ好きで知られ、宮廷に西洋なしの木を植えさせ、自ら自分好みのなしを採取したそうです。 |
消費動向 |
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日本へは明治初期に欧米から導入されましたが、食べ頃や栽培が難しいことからなかなか定着しませんでした。昭和後半頃からようやく普及し始めたものの、その多くは加工用として出回り、1970年代に加工需要が低迷したことから生食への取り組みが本格化しました。希少価値も手伝って高級品として販売されてきましたが、現在の主流でもあるラ・フランスやル・レクチェ、バートレットを中心に生産量が増加したことで、秋の味覚として定着し、生産、消費ともに増加しています。 |
日本梨と西洋梨の違い |
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最も大きな特徴はその形で、日本の梨が丸い球形なのに対し、洋梨は上が細くお尻が大きい、ひょうたんのような形をしています。また、食味にも違いがあり、和梨がみずみずしくシャリシャリしているのに対し、西洋梨はねっとりと甘く、香りも非常に豊かで、なめらかな食感です。 |
品種(出回り順) |
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西洋梨は品種によって形や色も様々です。多くは、いびつで独特な形(ひょうたん形)をしていますが、和梨のように球形に近いものもあります。果皮の色も緑や黄色、赤など様々。果皮には「さび」と呼ばれる、傷のような褐色の斑が多数あります。日本で栽培されている品種の多くは緑色の果皮で、追熟すると黄色になるものがほとんどです。
バートレット(8月下旬~)
イギリス原産で世界的にも生産量の多い品種。果皮は鮮やかな淡緑色ですが、追熟すると黄色になり、特有の芳香を発します。果肉は白色でほどよい酸味と甘みがあり、なめらかな食感が魅力。缶詰用としてもよく利用されています。果皮の赤い「レッド・バートレット」もあります。
オーロラ(9月上旬~)
アメリカ原産の品種。日本へは1980年代ごろに導入されました。上品な甘さで、とろけるような食感。熟すと果皮は黄色くなり、香りが強くなります。
マリゲリット・マリーラ(9月中旬~)
フランス原産の大玉品種。果色は黄色くなめらかで美しい。果肉は白色で、酸味はなく、さわやかな甘さで食味は良好です。
グランドチャンピオン(9月中旬~)
アメリカ原産。果皮全体が薄茶色のサビで覆われており、熟すと黄色っぽくなります。濃厚な味わいで、果汁が多くトロリとした食感です。
バラード(9月下旬~)
「バートレット」と「ラ・フランス」をかけ合わせた品種。山形県で誕生しました。甘みが強く、ジューシーでなめらかな食感です。
ゼネラル・レクラーク(10月中旬)
フランス原産の大玉品種で褐色の斑点が目立つ。香りが強くジューシーで、ほのかな酸味と上品な甘みが特徴。生産量は少ないですが、ラ・フランスのシーズン前に短期間だけ出回る品種です
ラ・フランス(10月上旬~)
フランスで発見された品種で、日本には明治36年に導入されました。今では西洋梨の代表品種として有名です。果皮は茶色みがかった黄緑色をしており、果肉は淡黄白色です。特有の芳香があり、濃厚な甘みととろけるような口あたりが特徴です。
フレミッシュ・ビューティ(日面紅)(10月下旬~)
ベルギー原産。明治時代に日本に導入されました。ジューシーで酸味が少なく、日の当たった部分が赤くなるところや、シャキッとした食感はりんごに似ています。別名「日面紅(ひめんこう)」や「姫子(ひめこ)梨」などとも呼ばれています。
ウインターネリス(11月下旬~)
ベルギー原産。形は球体に近く、果皮は全体的にサビでおおわれています。果肉は乳白色で、果肉はねっとりとなめらかな舌ざわり。
ル・レクチェ(12月上旬~)
フランスで育成された品種で、明治36年に日本に導入されました。形はひょうたん型で、果皮は淡緑色。熟すときれいな黄色になります。果肉は緻密で甘みが強く、ねっとりとした食感が特徴です。
シルバーベル(12月下旬~)
ラ・フランスの自然交雑によって、山形県で誕生した品種。果形はラ・フランスに似ていて、完熟すると果皮は黄緑色から黄色に変わります。 |
食べ頃 |
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西洋梨は日本梨と違い、収穫後すぐには食べることができません。西洋梨は、木に成ったまま熟すのを待っていると水分が抜けて味もなくなり、ボケてしまいます。
そのため熟す前に収穫し、その後の予冷と追熟(収穫後に熟度を進めること)という過程を経てようやく美味しく食べられるのです。
一番の食べ時を知るのが難しいのですが、手で触ってみてやわらかさ感じる頃が食べ頃です。熟すと香りも強くなります。また品種によっては、果皮の色が変わるものもあります。食べる2~3時間前に冷蔵庫で冷やすとより美味しくお召し上がり頂けます。 |
選び方 |
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形の美しさはあまり味に関係ありませんが、果皮に傷のないものを選びましょう。傷があると追熟中に腐ってしまう恐れがあるので避けましょう。また、同じ大きさならずっしりと重みのあるものが良いでしょう。 |
保存法 |
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食べる分だけを部屋の中に置いて追熟を進めるといいでしょう。乾燥しすぎないよう紙袋などに入れて20℃前後の場所で追熟を。逆にしばらく保存しておきたい場合は、ビニール袋に入れて冷蔵庫の野菜室に入れておくと追熟を抑えることができます。 |
栄養価 |
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日本なしと同じように、水分と食物繊維が多いので便秘の予防などに役立ちます。また、発熱によるのどの渇きや痛みの緩和、二日酔いに有効で利尿効果があります。カリウムも豊富に含まれているため、塩分を摂りすぎる日本人には適しており、高血圧予防にも期待できます。
ビタミン類は多いとはいえませんが、のどの消炎に効果があるソルビトール、疲労回復効果のあるアスパラギン酸、消化を助ける働きがあるプロテアーゼを含んでいます。またポリフェノール類も含むため、ガン予防にも効果を発揮します。 |